
訪問作業療法とは何をする仕事なのか
訪問作業療法は、利用者の自宅や地域で行う生活期リハビリのかたちです。
病院のように整った環境ではなく、実際に暮らす場で評価と介入を行うため、日常生活で再現しやすい工夫が生まれます。
対象となるのは、脳卒中後や整形外科疾患、認知症、難病、フレイルなど幅広い方々。
動作の再学習だけでなく、生活の手順を簡略化する工夫や道具の選定、家事・役割の再獲得まで視野に入れます。
支援の中心は、食事・更衣・トイレ・入浴といった基本的な日常生活動作、そして調理や掃除、買い物などの手段的日常生活動作です。
ご本人の望む生活像を起点に、負担を減らす動き方や環境調整を一緒に探ります。
家族や介護者への助言も重要で、声かけの頻度、介助の手順、見守りの範囲をすり合わせることで、在宅生活の安心感が増します。
住宅改修の提案や福祉用具の活用も強みとなります。
段差解消や手すり位置の調整は転倒予防に直結し、滑り止めや浴室マットなどの小さな工夫が大きな安全につながる場面も少なくありません。「その人らしさ」を支える視点を持ち、活動・参加の幅を生活の場で広げていく。ここに訪問作業療法の価値があるといえるでしょう。
訪問作業療法士の一日のスケジュール例
一日は事業所での準備から始まります。前日までの記録を確認し、当日のゴールを具体化。
必要な評価用具や衛生資材をバッグにまとめ、移動経路と時間配分を確かめます。
午前は1〜2件を訪問し、状態の変化を観察してから介入に入る流れです。
痛みや疲労度、睡眠、服薬状況を確認し、過負荷にならない負担量で練習を組み立てます。
たとえば脳卒中後の片麻痺では、ベッドからの起き上がり、立ち上がり、トイレ移動の連続性を確認。
キッチンでは片手で扱える調理器具を試し、利き手交換や姿勢の安定を図ります。
認知症の方には、手順を減らす工夫や視覚的な手がかりを置くことで、混乱を抑えつつ成功体験を積み重ねられます。結果として自信が戻り、生活のテンポが整っていきます。
昼休憩の後、午後の訪問を開始。移動は天候や道路事情に左右されやすいため、時間にゆとりを持たせる計画が無理のない運用につながります。
各訪問のあと、その場で簡潔に記録を残し、帰所後に評価所見とゴール到達度を整理。
必要に応じて主治医や看護師、ケアマネジャーへ連絡し、方針を共有します。終業前には翌日の持ち物と経路を再確認。
無理なく続く計画づくりが、在宅支援の質を底上げします。
訪問に必要な持ち物チェックと移動・記録のコツ
基本セットは、バイタル測定機器、手指衛生用品、簡便な評価用具、テーピングや滑り止め、剪定ばさみ(せんていばさみ)や結束バンドなどです。タブレットやノート、筆記具も外せません。
バッグの中は仕切りで区分し、使用頻度の高い物を上段へ。消耗品は週初めに在庫を数え、補充のタイミングを固定化すると忘れ物が減ります。
公共交通を使う日は、階段やエレベーターの位置を事前に確認し、遅延を想定した余裕時間を設定します。
自動車の場合は駐車可能エリアと出入口の段差を地図で把握。
雨天は滑りにくい靴と替え靴下、機器を守る防水カバーを用意しておくと安心です。
猛暑日や寒波の季節は、屋外から屋内へ移る際の温度差に注意しましょう。
到着直後は無理に強度を上げず、体調に合わせて強度を微調整すると無理がありません。
記録は「事実」「評価」「次回方針」の三層で簡潔にまとめます。
できたこと・難しかったこと・安全面の所見を分けると、後から見返したときに変化が追いやすくなります。
実施内容の羅列だけで終わらせず、生活上の成果に結びつく表現に言い換える意識も大切。
たとえば「立ち上がり10回」より「トイレ移動が見守りで実施可能に」の方が、チーム共有で意図が伝わります。
最後に、持ち物は「必要最小限で高汎用」の発想が鍵になります。滑り止めシートや面ファスナー、薄手のゴム手袋などは多場面で効果を発揮し、荷物の総量を増やさずに現場対応力を高めます。
準備と段取りが整えば、訪問先では利用者と過ごす時間に集中できます。生活の場で成果が見える支援を積み上げる。
これが訪問作業療法士の一日の軸といえるでしょう。